Jパネルで構成されたヴォールト屋根の家(鍋野友哉アトリエ)
<Jパネルで構成されたヴォールト屋根でゆるやかに繋がり包まれる空間>
この建築は設計者の自邸として計画・設計された。また設計者兼事業主であったため、挑戦的な構造方式や空間構成、また分離発注方式で施工を進められた。東に御所山を望み、近くを流れる最上川支流の白水川によってかたちづくられた扇状地。敷地北西側には開放的な公園があり、その先には古来より山岳信仰の地であった出羽三山の月山、湯殿山、羽黒山を臨む。その大地の形状と敷地周辺環境から、北西から南東の軸が決定された。人は古来より火を中心に集まる。火から暖を取り、調理に利用し、団欒のひと時を過ごす。今回の住宅も、1階の中央に設けられた薪ストーブを囲んだ居間を中心に空間を構成している。特徴的なヴォールト屋根の下は吹抜けとし、一体の居間を中心に軸方向に開口部を設け、縦と横に抜けのある空間とした。薪ストーブ背面の煉瓦屏風壁の裏には、フラットバーと無垢鋼材で構成されたトラスフレームにブナLVLを段板として用いていた階段が見え隠れする。
厳しい降雪地域にあることから、どのように雪と共存するかということを念頭に、構造家である稲山正弘氏と考えた南側を覆うヴォールト屋根は、北側の桁上にヴォールト屋根が架かる架構形式であるが、Jパネルと合板で構成された木質レシプロカル構造による。3×1.25mと、4×0.91mの2種類のJパネルの原板から切り出すことができる部材サイズになるよう、ヴォールトのジオメトリーを決定した。CNCマシンで切り出した部材を上下から組み、内部仕上げを兼ねたラワン合板と針葉樹合板を直交方向に接着ビス接合して一体化し、下部は棚として利用する。
また、このヴォールト屋根は居間を包みながら、雪を南側に滞雪させて溶かし、ソーラーパネルを設置する計画とした。また、扇状地由来の豊富な井戸水を汲み上げ、冬期は融雪に、夏期は打ち水による冷却用水として、屋根と敷地に散水する。北東側の外部には、桁に架かるヴォールト屋根の端部を三角形のSUS棟カバーで覆い、その端部と中央の3ヵ所には、彫刻家の高田純嗣氏の手によってつくられた3体のガーゴイルが鬼門の方角を睨むよう設置された。そこに繋がれた8角形の異形断面ステンレス彫刻は、雨水・井戸水・太陽光パネルの配管が走ると同時に、この建築の自然エネルギー循環の象徴でもあるのだ。 (鍋野友哉)
建物の概要
竣工 | 2022年 |
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CLT使用部分 | ヴォールト屋根(下部は棚として利用) |
使用したCLT | Jパネル(杉) |
CLTサイズ | 36×1250×3000、36×910×4000 |
構造 | 木造2階建て |
用途 | 専用住宅 |
所在地 | 山形県東根市 |
設計 | 意匠:鍋野友哉アトリエ、構造:ホルツストラ |
施工 | 建築:中村建築、金属・彫刻:アプリュスアソシエイツ、製作美術研究所 |
備考 | Jパネル加工:株式会社ミヨシ産業(CLTプレカット工場) |